今読んでいる本に、
血液-脳関門に関する興味深い内容があった。
血液-脳関門、これは、脳に有毒なものが入らないように、
脳に至る血管が細くなったり、
特殊な構造によって、通過できる物質を制限するようになっているところである。
分子量の小さな物質や、
脳に必要なイオンなどの物質しか通れないようになっている、
よくできた脳の仕組みである。
昔(になってしまった)、湾岸戦争というのがあったが、
その戦争に参加したアメリカ兵士で、
中枢神経に障害の起きる後遺症に苦しむ兵士が多く出た。
イラクが使用したとされるサリンが原因ではないかという話も出たものの、
カルバメートというサリンの解毒剤を服用した兵士にも、
この後遺症が出ていた。
しかし、このカルバメートは、血液-脳関門を通過できない物質なので、
中枢神経に異常が出たのは、カルバメートの副作用だとは考えにくい。
だが後にイスラエルで行われた研究で、この謎が解き明かされることになる。
それは、ピリドスティグミンというサリン関連の解毒剤を使った研究で、
ハツカネズミを使って行われた。
ハツカネズミを2つのグループに分け、
1つにはストレスをかけ、残りの1つにはかけない。
そうしておいて、ピリドスティグミンを投与すると、
ストレスのかかった方では、
ピリドスティグミンの有効量の100分の1というわずかな量で、
脳内のアセチルコリンエステラーゼという酵素を阻害した。
これはつまり、血液-脳関門が破られたことを意味する。
ストレスがかかると、何らかの理由で、この血液-脳関門にわずかの隙間があき、
本来通過しないような物質が通過してしまい、
脳に運ばれていってしまうらしいということがわかったのである。
これは動物実験であるし、カルバメートで実験をしたわけではないので、
人間にもそのまま当てはまるかどうかは証明できないものの、
ストレスが、脳に重大な影響を与える可能性があるということが示唆された。
そう考えると、湾岸戦争の後遺症の問題も説明がつくことになる。
本の内容は大体そんな感じだったが、
これは日常的にも起こりうる問題かもしれない。
ストレスのかかった状態で摂取した食物や、
薬などの影響を受ける可能性は充分考えられる。
特に食物は、農薬や抗生物質を使ったもの、
あるいは環境ホルモンに汚染されているものを
知らないうちに食べてしまっているかもしれない。
それらが中枢に達すると、どういうことになるのだろうか。
予想がつかないだけに恐ろしい。
ブルーバックスから出ている「脳と心をあやつる物質」
おもしろい。