うつで孤独なマウスは、脳から記憶分子(memory molecule)を除くと、より社交的になり、対人恐怖症や外傷後ストレスのようなヒトの病気の治療に役立つかもしれないということがわかったという。 この分子療法は抗うつ薬のプロザック(SSRI = 日本未発売)やトフラニール(三環系)をマウスに与えるのと同じくらい効果があったと、研究者たちはサイエンス誌の最新号で報告した。 それらは喜びや危機感に関連していることがわかっている脳の部位にある分子をターゲットとしていると、この報告の著者の1人、University of Texas Southwestern Medical CenterのOlivier Berton氏は話す。 「濫用される薬物に関連する多くの研究がある、報酬径路(reward pathway)と呼ぶ脳の領域にあるこの分子に私たちは焦点を合わせました」と、Berton氏は電話取材で語った。 脳のこの部分からこの分子を除くと、通常逃走したり隠れるような状況でも、マウスはうつや恐怖症にならなかったと、Berton氏は言う。 「脳内のそのようなメカニズムを特定することができれば、このことは、より速く、より多くの人々に効果のある抗うつ薬を開発する方法です」と、Berton氏は話す。 この実験を行うために、Berton氏や同僚たちは、マウスを確実にうつ状態にする方法を見つけなければならなかった。彼らは、攻撃的にいじめるマウスのいるケージに、普通の社交的なマウスを入れることによって、これを行った。 社交的なマウスは、定期的にいじめっ子と戦うことが何日間にもわたって続くと、知らないマウスによそよそしくなり、恐怖心を抱くようになった。 いじめっ子がいなくなっても、うつ状態は続いた。 1ヵ月間抗うつ薬を投与すると元気になったという。 この分子を取り除くのに、マウスに麻酔をかけ、次に、この分子を無力にするウイルスを脳のこの特定の部分に注入した。この種のテクニックがパーキンソン病の研究で実験的に使用されたと、Berton氏は話す。 マウスでのこの結果は、いじめに対する典型的なうつ症状の反応を妨げることで、慢性的な抗うつ薬療法に対する反応によく似ていた。 次のステップは、報酬径路における脳細胞の電気活動を記録することであると、Berton氏は彼の大学によってリリースされた声明で語った。 「私たちは、この分子から細胞までの神経回路レベルの理解のために、ストレスに対するこの応答を理解しようとしているところです」と、彼は話す。 (ロイター - 2月9日)